「16年」
「ちょっとそれ……もう忘れた方がいいんじゃない?」
 庶務課はもっともな意見をぐさりと言った。
「あー、聞きたくない、聞きたくない」
 今井はすぐに耳を塞ぐ。
「あの人?」
 成瀬は突然香月に聞いた。
「え?」
「あの、前会社のロビーで。エレベーターの前で会った人」
「えー……そんな人……」
 言いかけて、思い出した。ああ、附和のことか。
「ううん、あの人じゃない」
「香月さんって彼氏、いるんですよね」
 多岐川は初対面にも関わらず、完全プライベートな話題をいとも簡単にふっかけてくる。
「え、まあ……」
「どんな人なんですか!? すっごい興味あるぅ」
 そんな可愛い子ぶられてなお、興味も、持たれても……。
「えー……」
 なんて言おう……。
「すごいよ、この子の彼氏。ほんとびっくりしちゃう」
 突然今井が説明をし始めた。
「えっ!? 知ってます!?」
「うん、この前、伊吹君に聞いた」
「え゛!?」
 何言ってんだ、あの人!!
「えー、どんな人なんですか、どんな人!!」
「びっくりするよー!!」
今井は不気味に笑う。
「まさか、佐々木さん、とか」