だがもちろん、死んでいたっていなかったって、そこで放置するわけがない。
 2人はなんとか、気を落ち着かせて濡れることを決心し、ユーリは女を、香月は傘を担当し、女を自宅まで運ぶことにした。
 何故なら、女の顔を思い出したから。
「どういう知り合い……?」
 どういう知り合いかといわれると、ただの顔見知りだ。
 名前は……、何だっただろう。聞いた気がするし、聞かなかった気もする。
 まさか、こんなところで再会するとは夢にも思わなかった。
 坂上の妹に。
 女は気を失ったのかと思いきや、ただ憔悴しただけで、意識はちゃんとしていた。
 濡れる体を拭き、着替えさせ、ベッドに横たえてやる。もちろん、全てはいつも香月が使用しているものだ。
「どうするん、これから」
 ユーリは心配そうに聞いてくれる。
 だが、香月は恐ろしいほどに落ち着きを取り戻していた。
「うん、知り合いがいるから、その人にちょっと連絡してみる」
「まあ、あんな暗いとこだったら、顔見知りくらいだったら分からんか……」
 全くその通りなのだから、別に言い訳もいらない。
 ユーリはそのまま一度、自室に戻ったようだ。また、急ぎでもないことに時間を費やし、忙しいとぼやくのだろう。