「昨日、繁華街の小さなクラブで小火があったんだけど、附和さん、どうもそれに関係してるみたいですよ」
「……ぼや?」
 香月はようやく高羽の方を見た。
 エレベーターが到着してしまった。もちろん、高羽を無視して降りる。高羽はというと、予想通り付いて来た。
「ハナって店。知らない?」
「……全然……どこにあるんですか?」
「とはチック、反対方向。エースの隣だよ」
 ……チックの名前が突然出されたことに、香月は、高羽の顔を見た。
「……君、巽光路の女だよね?」
 その、無粋な口の聞き方に、香月は一瞬でそっぽを向いた。
「あ、待って。もうちょっと話し聞かせて?」
「言うことなんか、ありません」
「何? もしかして、もう喧嘩別れしたの……? 新しい女のことで」
「……」
 何? ……もしかして、さっき附和が言ってた、女のこと?
 香月は、思わず立ち止まってしまう。
「華ってクラブのママは、巽が長年囲ってる愛人だよ。この辺りじゃ、有名。まあ、ああいう人は幾人もそういうのがいるのかもしれないけど」
「……なら、そうなんじゃないですか」
 香月は、ふざけた記事ばっかり追いかけている三流カメラマンの情報など、アテになるか!と、早足で部屋まで急ぐ。
「君、巽がどんな男か知ってるの?」
 香月は部屋の前で一瞬立ち止まった。
「……」
 だが、もちろんそのまま前へ玄関の中へ突き進む。