「……」
 相手は誰ですか!?
 ……聞こうとしてやめた。そんなこと、聞いたって分かるはずもない。
「乗る? いつものように、交換条件に応じるなら、車に乗ってもいいよ」
「それを出すのは附和さんじゃないですか」
「でも受けるのは君だよ?信じられないね、好きの意味を教えてもらってないんじゃない?」
「……」
 頭が真っ白になる。
 好き、の意味?
「薫様」
 運転手が初めて声を出した。
「悪いけど行くよ?
 僕本当に時間ないから」
「あ……」
 窓にかけていた手をようやく引っ込めた。彼は大会社の専務だ。まだ仕事があるに違いない。
「これ……、今度は覚悟してからかけておいで」
 附和は夕方と同じ名刺を一枚差し出した。
 すぐに車は、本当にそのまま駐車場から出て行ってしまう。
 それを見届けてから、紙を裏返した。
 今度こそは確かに、11桁の番号がそこにきちんと記されていた。