「遅いよ。君がこんなところまで僕を招いたんだ」
 附和は見下すように笑った。
 どうしよう……附和はそのまま玄関を出て、コツコツ廊下を歩いて行ってしまう。
 角を曲がった。エレベーターが来ていれば、すぐに乗り込めただろう。
「……」
 香月は、決心をして、走り出した。
 追いかける。角を曲がると、既にエレベーターは出てしまっていた。だからといって、階段では到底追いつかない。
 迷っていると、もう1台のエレベーターが到着した。
 この時間差なら、うまくいけば間に合う。
 香月はそれに乗り込み、ロビーのボタンを押した。もしかしたら地下駐車場かもしれない。……しまった、携帯は家においてきてしまった。
 一旦ロビーで停まる。そこから辺りを見渡したが、それらしき人影はない。
 決心して、もう一階降りることにした。
 扉がひらくのを祈る気持ちで待つ。
「……! 附和さん!!」
 ギリギリ、高級外車の後部座席に乗り込もうとする彼が一瞬見えた。
 彼も声に気づき、乗るのを待ってくれる。
「……何? 忘れ物でもしたっけ?」
「あのっ……、附和さん、今何を言おうとしたんですか?」