おそらく、それが電話で済むような話であったとしても、彼はいつものように、そうやってお洒落にドキリとさせて、女を口説くのに違いない。
 香月は、どこへ会いに来るつもりなのか分からない附和を、仕方なく自宅で待っていた。附和に自宅を教えた覚えはない。だが、会いに来るのなら自宅だろうと予想して勝手に待っているのである。
 しかも、今夜というのは何時のことだろう。専務だから、仕事終わりは11時とかになるのだろうか?
 その前に、先ほど宮下から電話があった。車からかけているようなので、今日も9時まで残業お疲れ様と、他人事のように思いながら話をした。
「すみません、今日は残業……」
『いや、本当に体調悪そうだったから』
 本当に、という一言は余計な気がしたが。
「いえ、大丈夫です」
『涼屋のことか? 今日、腕掴まれてなかった?』
「……私が振り切ろうとしたから……そんなたいした話しでもないのに」
『ただの世間話?』
「いえ、前と同じ話です。彼氏が警察に追われてるんじゃないかって。なんだか、妄想に囚われてるみたいな、そういう感じがします。で、永井さんと仲がいいらしいんですよ。今日も永井さんに食事に誘われましたけど、断りました」
 味方につけておくなら部長の宮下が適任だ。
『俺も涼屋はほとんど知らないからなあ……永井のこともよくは知らないけど。けど今までどっちもどんな風なのかも聞いたことない』
「……永井さんが言うには、涼屋さんは私のことが好きで、その、私が彼氏と別れれば、涼屋さんを選ぶんじゃないかっ