「じゃあちょっと、その辺で食事でもしない? 番号聞いてあげるから」
「……何ですか、その交換条件」
「嫌ならいいんだよ。けど、知りたいでしょ?」
「……、じゃあ、どうやって知るんです、その、電話番号」
「簡単だよ。会社の社長室にかければすぐじゃん。彼につながる」
「……」
 そんなことができるのは、仕事関係の人間だけだ……そんな大胆迷惑なこと、大人になった香月にはもうできない。
 香月は一歩前に歩き出した。
「どこに食事に行くんでしたっけ?」
 その、少し刺のある聞き方に、附和はにっこり笑顔で答えた。
「RestaurantSkyTokyoだよ」
 附和はビルから出るとすぐにタクシーを捕まえで乗り込んだ。彼が危険……というか、巽とは知り合いのどこかのお金持ちで嘘つきの遊び人だということは分かっているが、今回ばかりはしっかり目を開いて、騙されないように目的を掴もうと、香月も後に続いたのである。
 それに、多分きっと、これ以外に方法はない。
「ここ、来たことある?」
「ありますよ。しかもこの部屋だったと思います」
 もちろん附和が通してくれたのは、ビップルーム。2人は、無駄に最高の夜景が見える個室の丸いテーブルを中心に腰かけ、意味もないまったりとした時間を過ごすことになる。
「え、デートで?」
「いえ、兄と。何だったかな……なんか、ここも仕事関係で……だったかな、忘れたけど」
「仕事関係? お兄さん、何やってる人?」
「自分では経営者って言ってるけど、要するに社長です。この辺だと駅前のショッピングモールとか手がけてる」
「あー!!! あ、そうだったんだ。香月ってそんなよくある名前でもないしね、はーはーなるほど」
「会ったことあるんですか?」
「あるある。そういわれれば似てるのかな?」
「まあ、兄弟ですから……」