3人が同時に振り返る。
「……」
 附和は驚いた表情をしたが、声には出さない。
「すみませんが、アポはとられてますか?」
 手前のでかい男が一番に口を聞いた。
「いや、知り合いだ。何? 巽社長から、何か託でも?」
 附和はまるで力なき者を救う神のように、丁寧に話しかけてくれる。
「いえ、あの……」
 ここでできるような話ではない。
「私、附和さんの携帯番号を聞くのを忘れていて……それで、今日、聞きに来たんです」
 それが以外に言葉は何も浮かばなかった。
「ああ……ごめんね……そうだったね」
 附和は不審な表情を浮かべたが、すぐに胸ポケットから名刺入れを出し、一枚出すと、ペンをとりはじめた。
「これが私用の携帯。ここに連絡くれればいいからと、巽社長に伝えてくれればいいから」
「あっ、ありがとうございます。すみません、突然お邪魔して……」
「いや、君の方こそ待ってたんじゃないの?」
「……ほんの少し」
 香月は、上品抜かりない秘書の手前、2時間待っていたことを隠してこの上なく丁寧に微笑む。
「じゃ」
「あっ、ありがとうございました」