5時の退社を心待ちにして、ようやく企画室から飛び出す。
 中央マンションから徒歩10分の附和グループ株式会社本社ビルは、それはそれは立派な建物であった。今の附和の父が代々の資産にものを言わせて建てたそうだが、その後、売り上げは倍以上に伸びているらしい。そんな後を、あの、附和の息子が継げるのかどうか微妙ではあるが。
 ビルに入り、堂々と受付に攻めてみたが、生憎専務は外出中であった。2時間後に帰ってくるらしいので、おとなしくロビーで待つことにする。
 附和グループは総合商社であり、カップラーメンから宇宙旅行まで、のフレーズさながら、多方面に手を伸ばしている。附和が言っていた、輸入店にしか手をつけていないというのは、自分の趣味の仕事のことだろう。
 空調の利いた、少し、ざわざわする空間でぼんやり座っていると、眠気が襲ってくる。そうだ、最近涼屋に脅されてうまく眠れていない気がする。
 ……そう、涼屋は私のことを心配して言っているようだが、その、本意を外にあまり出さない。
 好きだから、というよりは、正義、という方が前に出ている。
 それはともかく、巽とも麻薬の話しを一度しないといけないかもしれない。
 ……やはり、風間から先に情報を得ておくべきか……。
 ただ、風間は常に巽の側にいる。巽が仕事が終わったのかを見計らってから電話をかけなれば必ず話を聞かれてしまうので、それを避けるのが一番面倒なところだ。
 また、本屋で偶然会えればいいのに……。
 そう望みながら、ガラス戸の向こうを眺めてみる。いや、そんな簡単に、想い人に会えるはずはない。
 溜め息をついて、ジュースでも買いに行こうかと立ち上がった時だった。
 あれ……メガネかけてる、目、悪いんだったっけ?
 附和は、自動ドアからまっすぐ入ってくると、こちらには全く気付かずエレベーターに突き進んでいってしまう。
 隣には、秘書とボディガードか。
 香月は、この機会を逃してたまるかと、ヒールも構わず走ってから、少し後ろで声を出した。
「附和さん!」