突然肩を叩かれて、驚いた。
「すみません、驚かすつもりじゃなかったんですけど……」
 そこには、長身を折ってスマートに腰掛ける永井がいた。辺りを見回すと、ミーティングが既に終わっていて、それぞれ既に片付けを終えようとしている頃だった。
「あんまり考え込んでるんで、話しかけづらかったんですけど」
「ああ、うん……」
「今度の企画、ちょっといきすぎですよね」
「え……ああ……」
 いけない、さっきのミーティングもほとんど話しを聞いていない。
「あの、涼屋から話を聞いたんですけど……」
 香月は、すぐに立ち上がった。
「私、涼屋さんの酷い思い込みで非常に迷惑してます。なんというか、どうしちゃったのかしら、あの人……」
「思い込み、なんですか?」
 永井は座ったままで、確認するように聞いた。
「なんか、妄想癖でもあるんじゃありません? 知りませんけど」
「僕もおかしいと思ってるんですよね。前から知ってるってわけじゃないけど、僕が知ってるここ何年かは、ああいう人間じゃなかったような」
「……」
「入れ込みすぎている、というか。香月さんと彼氏を別れさせて、……自分が彼氏になりたいから、だと思うんですけど」
「私、涼屋さんがいるからって別れませんよ?
 それに、もし、涼屋さんを選ぶのだとしたら、とっくに選んでます。だって、ずっと前から知ってるんですから……。 
今、涼屋さんが何を思っているのかさっぱりわかりません。私、普通に仕事がしたいんです。けど、ああやって他の人の前でその、想像で話をされると私も困るんです」
「ああ、確かにそうでしょうね……」
「ね!? お願いしますよ、永井さん、仲いいんでしょう?
 お願いだから、もう私に話しかけないように、釘を刺しておいて下さい」