「……」
 とっさに目を逸らしたが、言葉で出てくるまでしばらく時間がかかった。
「…………何を言っているのか、さっぱり。……何のことですか? そんなでたらめ……新聞記者だって書いてませんよ」
 鼓動が早くなっているのが、震える声のせいで、相手に伝わっているだろう。
「社長なんですよね? 経営者ですか? こんなことが世間に知れたら会社なんてやっていけないでしょう」
「……なんですか?」
余裕の表情を見せてくる涼屋に、香月は目を見て、はっきり睨んだ。
「僕はあなたを苛めたくて、言ってるんじゃありません」
「じゃあ、ほっといて下さい」
 香月は涼屋を置いて、元来た方へ振り返った。
「待って下さい!!」
 また腕を掴まれたので、激しく振った。
「香月!」
 遠くで声がした、宮下だ。彼は、早足で近づいて来ている。
「附和薫さんからの情報です。間違いない」
「附和……?」
「レストラン、スカイ東京のオーナーです」
「知ってます」
「彼と、あなたの彼とは幼馴染みたいですね」
「……」
 そこまで調べてきたことに、愕然とした。情報元は、まさか、附和薫!?
「香月、何だ? 頼んでおいたこともほうっておいて」
 宮下は助けるつもりなのか、あからさまに涼屋を睨んだ。
「……戻ります」
 香月はそのまま、宮下の言うとおり企画室へ戻る。宮下が涼屋に話しかけている声が後ろで少し聞こえたが、もちろん知らないふりをした。