昨日の今井が言っていた榊の子供のこと、夕貴に確認しようと思って電話をしたのに、あいにく朝まで連絡はつかなかった。もし何かあっても、今はもう簡単に会社を休もうとは思わないが、それでも出社前に連絡が欲しかったなと、溜息をつきながら新企画部のドアを開けようとした時だった。
「香月さん!」
 聞き覚えのある声に、振り返った。相手はかなり遠くから呼びかけている。
 ……涼屋だ。
 だがしかし、こんな会社の中で話しかけるのだから、きっと、仕事のことに違いない。
「はい、おはようございます」
 香月は相手が走り終わるまで待ってから挨拶をした。
「おはよう、ございます……。あの、今、ちょっとお話したいことがあるんですけど」
「打刻まだなんです。先、打刻してきますから」
「あ、はい」
 涼屋は素直に聞いてくれたので、そのままデスクにバックを置き、打刻だけしてまた廊下に戻る。
「なんでしょう?」
 人の行きかいが激しい出入り口で、香月は話しを始めたが、涼屋はゆっくりと、人気がない、自動販売機の方へ歩き始めた。
「なんですか?」
 眉間に皺を寄せて口調をきつくした。
「昨日、聞きました。あなたの彼氏が麻薬を使用していることを」
 心臓がぎくりと鳴った。
「……知ってたみたいですね」
 涼屋は少し、和らいだ表情を見せた。
「僕は、あなたは使ってないと信じています。どうでしょう。彼に自首するよう、勧めてみては」