一応確認はしておく。そんなことあるはずないと、今井も十分紺野に確認しているはずなのに。
「……ええ……」
「……違います。あの人を忘れるのは大変でした、本当に。苦労して、努力して、忘れたんです。元々、知り合いの知り合いで……だから、私と彼の周りには共通の人が多いから、偶然会ってしまったりするんです。けど、そのたびに忘れる努力をして……」
「……子供に会わせたいって言ってたらしいわ。奥さんが」
「……」
 ……。
「、何? 固まって。え、知らなかった?」
 香月はどうにか、首だけ横に振った。
「子供、いたのよ。もう……7歳になるわ」 
「うそ……」
「1人だけね、男の子がいる」
「……、……」
 何か言わなければ、と思った。今井の前で、こんな動揺した姿を見せるわけにはいかない、心の中では分かっているのに。
 榊は何と言った?
子供は流産した、と言ったのではなかったか?
「りゅ……」
「昔は優しかったんだけどなあ……。もう彼、私のこと忘れてるって言ってた?」
 突然、現実的な会話に戻り、ついていくのがやっと。
「えっ。いや……」
「香月さんは今も連絡とってるんでしょ?」
「え、でも……。そんな、連絡先が分かる程度で、頻繁にじゃないし……共通の友達がいるからあれですけど……」
 とりあえず、夕貴の顔を思い浮かべておく。
「けど元彼よね?」
「え、いや……というほどでも……。私が仲良かったのは、私が学生の頃で……まだ19とか、そういう時でしたから」
「あ、そうなんだ……、なんだ。そうだったんだね」
 今井はある種の優越感に突然浸ったように、満足した表情を見せ始め、さすがにムッとした。
 榊に子供が……?
いや……今はそんなことに感傷的になっている場合ではない。