今井と目が合った。だが、すぐに逸らされた。
「あれは……友人の借金の肩代わりをしたんです。私の意思です。その友人は……今井さんも知ってる人です。だから、名前は出しませんけど。そのこと、彼氏のことは関係なくて。もし、彼氏と付き合っていたのなら、私はお金を借りたと思います。
 彼のポケットマネーでどうにでもなる額でしたから。
 だけど、それができなくて、仕方なく働いたんです。それで、仕事を一旦やめたんです」
「けど、休職になってたわよね? 体調不良で」
「それは、宮下部長がそうしてくれたんです。ルームシェアを飛び出して辞表を出したんですけど、宮下部長とルームシェアの同居している人が知り合いで、一旦休職にしようって話てくれて。だから今私が、エレクトロニクスで働いてるのは、本当……偶然の重なりなんです」
 しおらしく話をまとめたつもりだが、今井は更に突っ込んだ。
「で、今は店舗に戻りたいけど、戻れないのかあ……。
 で、彼氏とはどうなの? より戻してどうなったの?」
 いい加減うんざりきたが、この問いには自信を持って答えることができたので、正直に言った。
「結婚したいって言われました」
「えっ」
 小さく息を飲んだような声が聞こえた。
「けど、仕事も再開したてでなかなかうまくいかなくて。
 今は保留みたいになってますけど」
「えー、なんなのそれえ。もったいない! 結婚しちゃえばいいのに! 一回くらい」
 その最後の一言は余計だろう! と思ったが仕方ない。今井には一度もそう言ってくれる人がいないのだろう。
「……今の彼氏って、あの人じゃないわよね?」
 今井は突然神妙な顔をした。
「榊……先生のことですか?」