どんな表情にしようか迷ってしまったせいで、数秒、沈黙になってしまう。
「分かりません、こん……芹沢さんが考えていることは。
あそういえば、もう酷いんですよ(笑)。一度別れたんですけど、その原因になったのは、紺野さんのせいですよ。あ、芹沢さんか。
深夜に突然電話がかかってきて、会うことになって。それが彼氏にバレて、こんな深夜に男と会うなんて! って揉めて、それで私が出てっちゃったんです」
「それ、本人気づいてないんじゃない?」
「だと思いますよ。けどまあ……、今の関係の方がいいから、それで良かったんだと思います」
「……、別れられない、とか?」
 今井は真剣にこちらの瞳を覗き込んできたので、香月は少し身体を引いた。どうやら、紺野から少し話を聞いているようである。
「……別れられない、とは違います。別れようと思えばいつだって別れられます。簡単に。彼は私を追いかけては来ません。
 私、いっつもそういう人を好きになってしまうんですよ。追いかけてこない人」
 そう、榊こそそうであった。そういう風に話をすりかえたかったのに、
「私は信じてないんだけど、香月さんも薬を使ってるかも、みたいなことを奏ちゃんが言うからさ! そんなこと、あるわけないのにね!」
 今井は芹沢の言葉を否定しきれない、とでも言いたげに、グラスをぐいっと傾けた。
 まさか、こんな風に疑われていたとは思いもしなかったので、ショックを受けた。あまりにも衝撃的で返す言葉が見つからない。
と同時に近くに紺野がいるのではないかと、今井の背後や自分の背後を確認した。
「……いくら好きだって、……そこまで盲目になってるわけじゃありません」
「だって、一度クラブで働かされたんでしょ?」