さらっと聞いただけでは飲み込めない部分があったが、とりあえず今は、最後の部分にだけ、返事をした。
「そんなことないさ、ああいう課に配属されたってこと自体が期待されてるってことなんだよ! な? だからもっと……積極的になっていった方がいい」
 彼女はこちらを見ず、ずっとテーブルを見つめていた。
「さっきは牧先生に報告に行ったんです。
 私はエレクトロニクスをやめることができなかったので、牧先生のところでは働けません、って」
「え!?」
 それも寝耳に水だ。
「牧先生に引っ張られてたのか!!? 何で早く言わないんだ! そんな大事なこと……!」
「最初から働く気なんて、ありませんでしたけど。会社でうまくいかない時、牧先生のことが支えになってるっていうか……だから、ずっと返事を先延ばししてたんです」
「それは、牧先生と付き合ってるってこと?」
 勢いに乗ったつもりで聞いた。
「いえ、そうじゃなくて。うちの事務所で働かないかって。その、選択肢を支えにしてたんです」
「……」
 宮下は、弁当に手をかけるのをやめて、香月の方に体を傾けていた。
「いつ? その話があったのは」
「少し前……、2ヶ月くらい前です」
「そんなに……」
「牧先生は、もともと佐伯が知り合いで、私も顔見知りだったんです。だから、私、だったんだと思います」
「あ、そういうこと……」
 なるほどな、そういう根があったのか。
「……で?」
「で……、だから、これからはやっぱりここで頑張らないといけないなあと思って」
「そうだよ、最初からそうだよ!」
「副社長に言われました。宮下部長を頼りにすればいいって」
「そ、そりゃそうだよ。部長なんだから」
 心の中では大きく胸を叩いたが、言いながら、自分でも納得いかない点が山ほどあった。