こちらの弁当の袋を見ながら言った彼女は案外、元気そうだ。自らの目の前にしているのは、オレンジジュースのカップだけだが。
「ああ、……まあ、食堂に来てるなら、同じだけど」
「そんなことないですよ、手作りの方がどれだけも美味しい。しかも、作ってくれるとなると、なおさらですね」
 さらっといわれると、少し傷ついた気持ちになる。
 いけない。
 すぐに、巾着袋の紐に手をかけた。
「で、副社長室って、どうしたんだ?」
「辞表を出したんです」
 ……、
「え!?」
 香月はそれでも、平然としていた。
「何で!?」
「なんでって……、私、ずっと店舗に戻りたかった。けど、戻れそうになかったから」
「そんな……、相談してくれれば良かったのに!」
 言った後で後悔した。非常に情けない上司そのものだ。
「でも、受理されませんでした。最初、人事部の真藤さんに書類を取りに行ったら、副社長に提出してほしいって言われて。それで直接出しに行ったんです。
 そしたら……、他の人もみんな頑張ってるから、……頑張れ。みたいな感じで……。
 店舗に戻してほしいって言ったんですけど、店舗に戻るとお客さんとトラブルを起こすからダメだって。
 だけど、どうして私みたいに仕事してない人を雇ってるんですかって聞いたら、君には期待してるって言われました。
 変ですよね」