隣は十分空いていたが、香月は、10センチほど右肘掛の方に寄った。
「……今からお出かけですか?」
 察しはいい方のようだ。
「はい、人を待ってます。もうそろそろ来ますから、時間はあまりありませんけど」
「彼氏ですか?」
 突然、何言い出すんだ、この人??
「ち、違いますけど……」
「……良かった……」
「え」
 え、何!?
 涼屋は1人勝手に胸をなでおろしている。
「この前……警察の人は詳しくは言わなかったけど、香月さんの彼氏、警察に追われてるような人なんじゃないんですか? 僕、それが気になって……」
 香月は視線を落として、口を閉ざした。
「香月さん、この前の発砲事件だって、香月さんに関係してるんじゃないんですか?」
「そんな、関係なんてしてるはずないじゃないですか! あれは単に巻き込まれただけです。その日は、早引きの日だったんです。偶然です」
 涼屋はそれならと、視点を一点に集中せさてきた。
「僕は香月さんのことが心配だから言います。
 そういう警察沙汰になっているような人と、関わり合いを持つのはやめた方がいいと思います」
 ぐさりと胸に突き刺さる言葉に、香月は涼屋を睨んだ。
「あなたには関係ありません」
「それほど好きなんですか、彼氏が」
「それも、あなたに関係ありません」
 2人の会話はどんどん早口になっていく。
「警察が来たことが、会社の人にばれると困るんでしょう?」