ただ会いたい……何時でもいいから。
 そう巽に懇願したことは、もう数え切れないほどになる。
 それでも、いつもそう言いたい。だけど……我慢している。
 昔に比べて、言えば、無理矢理都合をつけてくれるようになった。シティホテルをとって、一時間でも会ってくれる。
 今日だって、そう。
 夜10時に電話して、朝方4時なら仕事が終わるから今からホテルで待っていろ、と。
 多分きっと、同日午後2時から仕事だろうから、少し寝る前に相手をしてくれるつもりなんだ……。
 その、少しの、ほんのちょっと、5分でもいいから会いたいんだと、そのために、香月は自宅のロビーまで出て来ていた。風間が迎えに来てくれるのである。そういうのは、なんだかちょっと好きではない。けど、巽は心配して手配してくれていることだから、仕方がない。
 風間に迷惑がかからないよう、約束の10分前には既にロビーのソファで待っていた。
 夜10時過ぎは、まだ少し人気もある。
 安心して、なんとなく携帯電話をいじっていると、
「香月さん」
 と、なんだか深刻そうな声に呼ばれて、顔を上げた。
「、涼屋さん! どうしたんですか!?」
 驚いた。何!? 突然……このマンションに用で来て、鉢合わせたのだろうか?
「あの、ちょっと……、お話したいことがあって……」
「えっ、私に?」
 相手に表情が伝わらないよう、配慮したかったが無理だった。そんな親しくもないのに、わざわざ自宅まで押しかけられたのである。誰から家のことを聞いたのだろう。
「はい。隣、いいですか?」
「えっ、どうぞ」