宮下は立ち上がった。
「……香月は、その人が必要だと思ってるんだろう……」
 妙に心がこもっている気がしたが、気のせいではないだろう。
「宮下部長、彼女、発砲事件にも関わっていたんですよね? とても危険な話じゃないんですか?」
「いや、あれは全く関係ない。ただの巻き添えだったようだ」
「そうでしょうか?」
 領野も立ち上がり、堂々と宮下の目を見て言った。そのせいでムッとしたのだろうか。
「……所詮……」
 宮下は、あの温厚そうな宮下は、いとも簡単に暴言を吐いて見せた。
「涼屋君も相手にされてないってことだよ」
 あまりにも図星で、胸が痛くなるほどだった。 
「それを自覚して、君にできることを彼女にしてあげた方がいい」
「宮下課長と付き合っていた頃は、どうでしたか?」
 涼屋は負けじと即聞いた。
「そんな噂には答えられないな。僕は普通に、部下の一人だと思ってるよ。時々トラブルに巻き込まれたりするし、昔から一緒に仕事してるから、仲良く見られがちだけどね」
 完全な惨敗。
 宮下は何も言わず、背中を向けた。その、今は父親になったという背中が、突然大きく見え始める。
 涼屋は、涼しげな、それでいて暖かそうな宮下の背中を見て、ただ拳を握り締めた。