あの、発砲事件のことが思い出されて仕方なかった。いや、単なる仕事のミスの話、またあるいは、全く別のコウヅキという人物のことかもしれない。
 だが、涼屋は思った。
 今、宮下に少しでも情報提供をお願いしたい。
 涼屋は食堂外の自販機のソファに座りなおし、2人が食堂から出てくるのを見計らい、宮下を捕まえようと試みた。
 何十分でも待つつもりだったが、意外にもすぐに2人は出てきてくれた。
 涼屋はすかさず立ち上がって、宮下を呼んだ。
「宮下部長」
 廊下の途中で呼びかけられた宮下と朝比奈は同時に一時停止した。
「すみません、ちょっといいですか?」
 部長級の人物と話をすることはよくある。従って、本社に移動して経歴が浅いといえど、そこで妙な気を遣う必要は特にないと自分に言い聞かせ、諒屋は人払いをした。
 朝比奈は一言出すとすぐに前に進みだした。
「なんでしょう?」
 宮下は不思議そうな顔をしながらこちらに歩み寄ってきた。
「すみません、ちょっと座ってお話し、聞かせていただいてもいいですか?」
「えっ? ああ……」 
 更に驚いた表情をしたが、彼は素直に従ってくれた。
 2人は2人掛けソファに座って、ようやく話を始めた。
「すみません、あの、さっきの会話、少し聞こえてしまいました。朝比奈さんとの……」
 宮下は明らかに表情を変えた。
「……」
「香月のことは、伏せておく、というのは、どういう意味なんですか?」