香月は意味が分からなくて、ただ紺野を見つめた。
「尿検査? 何の関係があるんですか?」
「……その様子なら大丈夫なんですね」
 紺野は少し笑ってテーブルに視線を落とした。ああ、そうか、薬物を摂取しているのかどうか、という意味なのか……。
 巽は……使っているんだろうか。
「彼なら、あなたを薬漬けにして、売り飛ばしてしまうことなど、簡単ですよ」
 脅しには聞こえなかった。
「……そうかもしれません」
 精一杯の強がりのつもりで冷静に言った。
「……怖くないんですか?」
「何がですか?」
 紺野は数十秒、こちらをじっと見つめてから、目を逸らした。
「……不思議です……。あなたがどうやってマフィアと巽を操っているのか」
「私からすればその考えの方がよっぽど不思議です。
 そんなこと、できるはずがない。
 その……中国の方だって、私にはよく分かりません」
「マフィアのトップは巽とつながっています。トップは巽のせいで、10年ほど前、一度獄中に入っています」
「……へえ……」
 巽とリュウの間に一体どんなことがあったのか、特に知りたくもない。
「坂上の事件、あのことも本当に知らないんですか?」
「あれは……」
 言おうかどうか、迷った。
「もし、あなたが嘘をつかなかったら、言っていたかもしれません。
 けど、私はあなたの嘘のせいで、大いに傷つきました。だからお教えしません」
 紺野の表情が見る間に真剣になっていく。
「……」
「私、嬉しかったんです。きっと。友達が少ないから……。
 考えてみれば、私の男友達は恋愛関係に発展した人が多い。その中で、あなたは純粋にただの友達だと思っていました。
 密かに、貴重だったんですよ」