涼屋雅人(りょうや まさと)が香月と話しをしたことは一度だけある。
「香月さん、これでいいですか?」
フリーの香月にたまたま押し付けられる形になった仕事の確認に、彼女を呼んだ。
「あ、すみません! ありがとうございます、もう、ばっちりです」
彼女はまだ確認もせずに、にこやかに笑顔を向けた。
同じ店舗の配属になったことは一度もない。
偶然自分が応援に行った店で、会っただけ。
だけど、休みの日を利用して、こっそり彼女を見に行ったことはある。それはもう、数え切れないくらいかもしれない。
彼女は多分自分のことを知らない。
無名な、年下の平社員のことなど、知るはずもない。
だから、彼女の後を追うべく本社試験を受けた。
2度受けた。2度とも落ちた。毎回倍率は高い。百人以上受けて、一人も受からない時もある。それでも、いつの日か、合格したのならば、あの、本社のフロアにいたのならば、また、偶然にでも話ができるかもしれないし、ビルのロビーで待ち伏せしていたならば、毎日顔を見られる。
それを信じて、3度目を受けた。
結果は、見事、合格であった。
配属は、人事部。ここで名前を上げていけば、いつか彼女にたどり着けるかもしれない。
いつか、彼女に……。
そう願いながらも、実は本社勤務になってから1年以上が経過している。
「香月さん、これでいいですか?」
フリーの香月にたまたま押し付けられる形になった仕事の確認に、彼女を呼んだ。
「あ、すみません! ありがとうございます、もう、ばっちりです」
彼女はまだ確認もせずに、にこやかに笑顔を向けた。
同じ店舗の配属になったことは一度もない。
偶然自分が応援に行った店で、会っただけ。
だけど、休みの日を利用して、こっそり彼女を見に行ったことはある。それはもう、数え切れないくらいかもしれない。
彼女は多分自分のことを知らない。
無名な、年下の平社員のことなど、知るはずもない。
だから、彼女の後を追うべく本社試験を受けた。
2度受けた。2度とも落ちた。毎回倍率は高い。百人以上受けて、一人も受からない時もある。それでも、いつの日か、合格したのならば、あの、本社のフロアにいたのならば、また、偶然にでも話ができるかもしれないし、ビルのロビーで待ち伏せしていたならば、毎日顔を見られる。
それを信じて、3度目を受けた。
結果は、見事、合格であった。
配属は、人事部。ここで名前を上げていけば、いつか彼女にたどり着けるかもしれない。
いつか、彼女に……。
そう願いながらも、実は本社勤務になってから1年以上が経過している。