「えーそう? そんなつもりないんだけどな……私、友達少ないし……。休みなんていーっつも彼氏から電話がかかってこないか家で待ってるんだけどね、ぜーんぜんかかってこないの。最悪でしょ? 私のこと、きっと忘れてるか、どこかで浮気してると思うの」
「そうかもしれないな」
 巽は鼻で笑って小さなラム肉を器用に切る。
「もし浮気してたらね、どうしようかな……。
 けど、多分、私の方が立場が下だから、結局は、別にいいよってなると思う」
「どこが」
 巽はさも可笑しそうに笑った。
「何が立場が下だ」
「えー、だって。そうじゃない? 好きになる方が下で、好かれる方が上」
「ベッドの使い方か?」
「違う!! 真剣に話して損した」
 香月はワインを勢いよく傾けて、ごくんと飲み干してみせる。
「……ねえ、あの、紺野って人、本当はやばい人なの?」
「やばい、とは?」
「だからその……、本当は編集者じゃないのに、偽ってるっていう」
「さあな。本人に聞いてみたらどうだ?」
「いや、だからそんな仲良いわけじゃないのよね」
 紺野がどんな男でも、自分に関係してくることはない。
「……疑ってるの?」
「いや」
「うそぉ。だって珍しくしつこいじゃん」
「そうか?」
「うんそう……。けど、もし私が例え浮気してたとしたって、あなたが私を怒る権利はないと思うな」
「その根拠は?」
 もちろん四対の姉のことである。日本にいると言いながら彼女と会っていたことは、仕事といわれても納得できないかもしれない。だが、この話しはいつかの切り札にするためにとっておくことにしているのである。
「べつにぃ」
「……まあ、お前ほどじゃないさ。相手に優しくして、知らん顔しているのは」
「どういう意味?」
 真剣に聞いた。