え、私……今井さんと分け合えるような仕事なんか、あったっけ?
 だってあれくらいならできるって、自分で言うから……。
 数十秒、誰もその場を通らないことをいいことに、そのまま立ち止まって考え込んでしまっていた。
「香月」
 ところが、すぐに宮下が帰ってきてしまう。
「あ、はい」
「今井が今日は手いっぱいだって。この資料、今井に頼むか、香月が今の今井の仕事するか、どっちかにしてほしいんだけど」
「……」
 ひらりと白いプリントをめくってみせた。どう見ても時間がかかる。
 今は午前10時半。帰宅は4時に決まっている。
「今日中には、無理かもしれません」
「……、ならいい」
 彼はさっと資料を取り上げた。潔く。目の前の私を、切り捨てるように。
 私がダメでも他に誰かいる。そう、スタッフは大勢いるんだ。
「それと、明日の現場補助は他の人に行ってもらうから」
 それは、予期していたことだった。あんなミスがあったところで、今更同じ社員が、同じ、使い物にならない社員が出ていったって仕方ない。
「……は……い」
 宮下はこちらを見ようともしない。
 まるで、涙目なのが、鬱陶しいとでも言いたげだ。
 香月は腕時計を見た。いつか巽が、仕事ができるようになったらロレックスをプレゼントしよう、と言ったことを思い出す。
 それを目指して仕事をしていた時もあった。だが今の自分に、そんな日が、いつか来るのだろうか。