「はい」
 宮下は片手に持っていた書類から目を上げて、こちらを見た。
「すみません、今日……その、用ができたので、4時あがりにさせてください。……お願いします」
 宮下の表情があまりよくなかったので、お願いします、とあえて付け加えた。
「……どんな?」
 彼は歩き始めた。
 まさか、理由など聞かれると思っていなかったので、用意していない。正直に答えるべきなのか、どうなのか。
「……あの、お見舞いです」
「そんなの定時に終わってからでも行ける」
 的確だ。
「そうです、けど……」
 しかし、相手はリュウだ。こちらの時間になど、今更合わせてもらえない。
「5時からでも十分だと思うけど?」
 彼は企画室の前で立ち止まり、しっかりとこちらを見据えた。
「すみません、今日はどうしても4時じゃないとダメなんです。……先方の、都合なんです、すみません」
「……別にいいけど」
 宮下は、眉間に皺を寄せて目を閉じ、右手で自分の額をさすった。
「せめて仕事をしてる、というところを見せた方がいい」
 誰にですか?
「今井が苦言してたよ。仕事が全部自分に回ってきてるって。ちゃんと分担するように」
 えっ、いまい、さんが?
「……」
 宮下はそのまま中へ入ってしまう。