『はい』
 懐かしすぎて、声など覚えていない。
「もしもし、こんにちは。香月です。香月愛です。お久しぶりです」
『……用件は何だ?』
「今京都に来ているという話を聞きました。もし……東京に来るついでがあるのなら、お墓参りに……一緒に行きたいなって思ったんですけど」
『……京都の話は誰から?』
「警察から聞きました。なんだか分からないけど、事件に巻き込まれそうになって。その事情聴取の時に警察の人が言ってました」
『……ボスに確認する』
 長い保留であった。5分以上は経過したと思う。あまりも手ぶらすぎて仕事中なのにという罪悪感が沸き、片手でシンクを磨くのには丁度いいくらいだった。
『4時頃、場所は中央区だが、来られそうか?』
 彼が墓の場所を知っていたのだろうか。それとも、その場所にただ用があるのだろうか。
「かまいません。私は中央ビルで仕事をしていますから」
『分かった。では、4時にビルの裏手に回る。遅れるな』
「分かりまし……た」
 ばっちりのタイミングなのかどうなのか、給湯室のドアから宮下が通り過ぎるのが見え、慌てて携帯をバチンと折りたたんだ。
「宮下部長!」