それから3分ほどして南田の携帯が鳴り、彼はただ「はい」と三度ほど返事をしてから、紺野を見つめた。
「本部から、聞き込みを終了するように、連絡が入った」
「何!?」
「……関係のない人物にまで聞き込みをするな、と」
 南田の声はもちろん小さかったが、少しだけ香月にも聞こえた。
「……このまま、いつまで待つんですか?」
 溜め息をつきながら言う。
 だが、紺野はテーブルを見つめたまま、何も言わない。
「逃がしましたね」
 睨まれた。
 こちらも睨み返す。
「香月さん、私はあなたに、横道にそれてほしくない。友人として」
 紺野は立ち上がった。
「私が好きな人は、私が決めます」
 そうだ、いつだって、誰だってそうだ。
「深入りは、絶対に危険です。引くなら今のうちです」
「……あの人は私に優しい。私に優しいのは、あの人だけです。みんなもちろん優しいけど、私に何も求めないのは、あの人だけです」
「……友人として言います……。彼は、数々の女性を捨てて来た男ですからね。慣れているんでしょう」
 紺野はそこで止まった。南田と坂上は、先に自動ドアに移動しようと動き始めた。
「……そんな顔するんですね。別人みたい。……、今度、バーベキューしたいなって今井さんに言ったんです。今日ですよ、今日久しぶりに今井さんが話してくれて嬉しかったから……。けど今井さんは、日焼けするからやだって言いましたけど」
「………仕事で、いけないかもしれません」
「……」
 瞳を閉じた途端、涙が流れた。
「すみません、本当に申し訳なかった。正直に話します。本当は巽とのことを調査するために、あなたに近づきました。今井には何も言わず」
「……」
 そんなことで泣いているわけではなかったが、もう何かしゃべるのが面倒になった。