「違います、あなたです。香月さん。巽といて、今まで不審に思ったことなどありませんでしたか? それを、何か他のものでごまかされていませんか?」
「……何のことですか……」
 涙は止まらないし、この3人の哀れむような、憎むような、そんな視線も突き刺さったまま。
 南田はタイミングを計ったように提案した。
「では、彼の疑惑を晴らしてください、あなたが」
「とにかく、座って下さい」
 紺野は命令をした。そう、それはお願いではない、完全な命令だ。
 香月はバックから乱暴に携帯を取ると、電話帳から電話番号を調べて発信ボタンを押した。
「あっ! もしもし、ごめん。今もしかして、忙しい?」
『もしもし? え、どうしたんですか?』
 風間はそれでも冷静に対応した。
「ごめん、じゃあ後でかけなおしてくれればいいから。あのね、なんか警察の人が来てて。用は後で話すから、じゃね、すぐかけなおしてね」
 もちろん一方的に電話は切った。
「今会議中なんで後でかけなおしてくれるそうです。その時、あなたに代わります」
 賭けだった。風間に電話したのは。
 風間なら全てを分かってくれる。そう信じて。
 突然電話で事情をばらされた紺野達だったが、それでも冷静に話しを続けた。
「……、いつ頃かけなおしてくれそうですか?」
「さあ、すぐかかってくるんじゃないでしょうか」
 巽の仕事部屋など見たことないが、エレクトロニクスであるような普通の会議室で会議などないだろう。
「……そうでしょうか。もしかして、その間に行方をくらますかもしれません」
 紺野は、しっかりとこちらを見据えて言い切った。
「……失礼だと思わないんですか? 少なくとも。私、あなたのこと、友達だと思ってましたけど」
 紺野が一瞬表情を崩した。
 香月はもちろん、しめた、と思う。
「……別に、いいですけど」
 かといって、嘘をつくのは嫌いだ。それ以上言葉は出ない。