本気で悩んでみせたのに、思いもよらず、巽は面倒臭そうに一度溜め息をついた。
「何はどうあれ。せっかく掴んだ仕事なんだろうが。そんな周りのことなんか気にするな」
 やはり、前の彼氏、という点が気になるのだろうか。
「うん、だけどね……。私、そもそも自分の力で企画課に来たんじゃないし。……その、言ったかな、前に、私のために離婚した上司がいたって話し。その人が時々仕事回してくれたりね。他に、ホテル断ったら嫌味言ってくる設計士とか……」
 巽の前なんだから、少しくら、泣いてもいい。
「私、自分の力で何ができるんだろう……。人にそうやって斡旋されてばっかりで……」
 甘えて、その厚い胸に少し頭を預けた。
「仕事というのは、自分で取りに行ってもダメな時もある。そうやって人に斡旋されてこそ、大きく伸びるものだ」
 巽も、柔らかく頭を撫でてくれる。
「けどさ……。私は本当は店舗でフリーに戻りたい。けど、エレクトロニクスはやめたくない。きっと店舗なら、何も嫌なことがなかった、あの頃みたいに仕事ができるはずなのに」
 目をぎゅっと閉じると涙で、巽のワイシャツが濡れた。そのまま、そっと抱きしめてほしい。
「そうとは限らん。昔の思い出に浸りすぎだ」
 ずっとしがみついてきたその信念を突然完全に否定され、頭にきた。思い切って、目を見て睨んでやる。
「あなたはいいかもしれない。あなたはずっといいかもしれない。負けなしの人生かもしれない。
 だけど私はそうじゃない。私は普通の人で、あなたとは違う。私がこうやって悩んでたって、全然気持ちなんて分からないと思う。そんな経験したことないから、わかんないと思う」
 睨み付けて言った。だって、普通、彼女が泣いて悩んでたら、抱きしめて宥めるものでしょ!?