「お前にはそういう風に見せているだけか、お前がそういう風に見ているだけか。
 そもそも、アイツはバカじゃない。お前を休ませるのも、ある程度損得もあって動いているだろう」
「ええー??」
香月は思いもよらない発想に、眉間に皺を寄せた。
「……単なるどら息子じゃないの?」
「お前にはそう映るのか?」
「完っ全に!! それ以外の何者でもない。この前はその、副社長の息子と、四対さんとで食事に行ったんだけどね。その時もただの大学生みたいだったよ」
「それだけの権力を持った人物と気軽に食事ができるその人脈は、なかなかのものだと思うがな」
「別に……ただ、真藤さんはただの同僚じゃないけど、一緒に住んでるし。四対さんはなんというか、友達の彼氏の友達って感じだし」
 って感じ、というよりは、それそのままだ。
「偶然の出会いでもそれを維持しているだろ?」
「別に維持なんて……ただ会うから食事に行ってるだけ」
「お前の魅力を買ってるんだろうな、2人とも」
 巽が何を言いたいのか分からなくなってきたので、話を戻すことにする。
「あーあやだな……、仕事。そう、それでね、その……別の上司にね、私、することないんですけどって言ったら、すっごい大事なこと手伝わされちゃってさ。なんかそれも困る、みたいな」
「……その別の上司というのは、いわゆる、前の彼氏か?」
 巽はさらっと笑いながら言った。
「……そうだけどさ」
香月は負け時と、知らんふりを決め込む。
「今は結婚してるし、その付き合ってたことを知ってる人もあんまりいないと思うんだけどさ……。たまたま、その、私結構手があくんですって話をしたら、俺が行けない時は、現場を見てきてほしいって言われて……。けどそんな重要なこと、いきなり私が頼まれたら、ちょっと変ってみんな思わないのかな……」