「今度、連絡する」
 もちろん、香月に向けられた言葉であり、ヒサシの隣の彼女は一旦止まってヒサシを見上げ、次に香月を見た。
 だが、腕を組んで仁王立ちしている香月は、何に構うでもなく、完全にヒサシと自分だけの世界に入っており、
「……」
 ふいとそっぽを向いて、つんと拗ねて見せた。
 そのなんともまあ、可愛らしいこと。
 ヒサシはそれに満足したようにふっと笑って前を向き、香月は香月で、溜め息をついて、斜め下を見つめた。
「……」
「彼女かしら」
 突然呟かれた朝比奈は、返答に困りながらも、
「え、あ、多分……それっぽいですね」
「溜め息が出ちゃうわ」
 朝比奈は一度間を置いてから、バックから携帯を取り出す彼女に聞いた。
「今の……香月さんの彼氏……じゃないですよね、友達……ですか?」
「えっ??」
 香月は瞳を大きく開いた。
「いや……」
 あれ、なんかいけないこと聞いた? 俺……?
「彼氏じゃないない(笑)。友達です、友達」
 一度携帯を開いて確認すると、すぐに閉じてバックの中に滑り込ませる。
「朝比奈さんはどっち方向でしたっけ?」
「僕は中央区です」
「あ、そうなんだ。近いんですね。残念。じゃあ私、帰ります。お疲れ様でした」
「お疲れ様……でした」
 彼女はくるっと向き直って、すぐに歩き出してしまう。
 残念? 何が、残念だったんだろう。まさか一緒に、タクシーで帰りたかった……とか?