「そうですね……」
 って俺そういえば、さっき用事あるとか言った!?
 次の会話を待っていると、後ろのドアがガラガラと開いて、後の客が出て来てしまう。 2人はなんとなく同時に隣へ寄った。
「あっ!! 久司」
 とまあ、出て来たのは、なんとも派手ないでたちの男だった。ホスト? とはちょっと違う。ダークグレーのスーツの下は白いシャツで、靴も確かにスーツには合っているが、到底自分が履けるようなセンスのものではない。
「ああ、またこんなところで」
 顔のクールさそのものの喋り方だ。
「ね、今暇? 私暇なの」
「いや、悪い……」
 丁度よいタイミングで更に後ろから出てきたのは、女。まあ、2人ともデート衣装といった感じで、時間的にも、完全にこれからホテルへゴーの瞬間である。
「これから用があるから」 
 ヒサシはさらりと言ってのける。
「ね、誰?」
 後ろの彼女が聞いた。
「……お抱えの患者さん」
 ヒサシという名の男はどこも見ずに言う。香月は軽く軽く、彼女に会釈をした。
「こんばんは。……榊が、いつもお世話になっています」
 患者と紹介したのに、彼女のその挨拶はどうだろう。しかし、それ意外のどんなセリフが適当なのかと聞かれても、確かに、分からない。
「じゃ……」
 2人は、ヒサシを先頭に前に一歩出た。向かうのはホテル街とは反対側だが、今からすることは同じだろう。
長身、細身、色白でイケメンの医者? ……。
 朝比奈はヒサシの後姿からすぐに目を逸らした。なぜなら、相手がこちらを振り返ったからである。