企画課は他の部署とは違い、だだっ広いワンルームにデスクがずらりと端を占領し、中心に応接セットがある形式になっている。ここで新しいアイデアが出るようにする工夫なのだろうが、逆にこういうプライベートな話もしやすくて困る。
しかし佐藤ももう多分きっと、昔のことなど大してどうとも思っていないのだろう。受け答えも、本当に普通だ。
「佐藤主任」
「はい」
 朝比奈が近づいてきた。よくあるパターンなのだが、朝比奈が近づくと、佐藤はすぐに椅子をコロリと動かし、香月から遠ざかる。
「何人かで飲みに行こうって言ってるんですけど」
「今日?」
「はい」
「どうしようかな……香月は?」
「え?」
「今日、飲みに行く? 何人か来るんだって」
「……どうしようかな……行こうかな……。今井さんは?」
「行かないそうです」
「えー、女の人は?」
「2人来ます」
「行こうかな……どうしよう」
「行ってくれば? 憂さ晴らしに」
 佐藤は朝比奈が持ってきた書類片手に、香月に言葉を投げかけた。
「憂さ晴らしってそんな私、病んでませんよ。行きません、私」
 その大きな瞳の睨みに気づいてか、佐藤は満足そうに口元を緩めると、
「ああ、ごめんごめん(笑)。いや、そんなつもりで言ったんじゃない」
と、笑顔を見せる。
「部下はそういうちょっとしたことで、再び落ち込んだりするんです」
「ああ(笑)。場所、どこ?」
 佐藤は朝比奈に聞いた。
「駅前です」
「ああ。行こうか。行こう、うん、行くべきだ」
「無理してるみたいですけど、行きたいんですか?」