「こら、こんな所で何をしてるの!!」

いきなり背後から響き渡った声に、ビクリと振り返る。

そこに立っていたのは、見知らぬ老婆1人。

その険しい表情から、俺を不審者扱いしているのが嫌というほど伝わってくる。


あー、もう。

とっさに言い訳を頭の中で巡らせる。

「え、あ・・・。勝手にすみません。えーと、俺ここに入居希望で。ちょっと見学を・・・。」

しかたなく得意の営業スマイルを浮べてみる。

すると、つられて老婆の表情も少し柔らいだように見えた。

「あら、そうなの。でも、ここもう取り壊すことになったのよ。」

予想外の展開だ。

この場合、ここにいる地縛霊ってどうなるんだ?

「そう…なんですか。」


「そうなのよぉ。あたしも本当はアンタみたいな色男なら大歓迎なんだけどねぇ。 うふふ。ほんとうに残念だわ。」


老婆が少女のように瞳を輝かせ、俺を見つめてくる。



妙に気に入られてしまった俺は、少しそのまま老婆と話し込むことになった。


取り壊しは、4日後。
新しくマンションに建て替えられるらしい。

結局、老婆からそれ以上の情報は聞きだせず、俺は半ば逃げるように家路についた。