一呼吸置いて、彼が続ける。


「『置いていかない』んだろ?」


囁くように。

それは、まだ彼が幼かった頃に交わした約束だ。

母親と別れ、そして父親とも別れた、彼に向けて私が言った言葉。

それは、私には『死』という概念がない、という意味であったのだが。

ああ。

まだ、覚えていてくれたのか。

人間の記憶なんてすぐに消えてしまうものだと、聞いていたのに。


「……えぇ」


ようやく私が返答をすると、彼がにこりと笑う。


「だから安心していいよ」


「別に、ただ自分の役目が継続することを確認しただけです」


「そう」


やはりにこりと笑い、彼は食事に戻った。

私も食事へと戻りながら、安堵していた。



それは、最後まできちんとマスターの命令を果たせそうだという使命感なのか。



それとも。



いや、これも分からずともいいだろう。

きっと。