「最初はね」


ぽつりと、マスターが洩らす。


「君に、母親代わりになってもらおうと思っていたんだ」


マスターは何を言っているのだろう。

機械である私に、人間である誰かの、それも肉親の代わりなどできるはずもない。


「君がね、妻に似ていたんだ。それで、淡い期待を持った」


その言葉に、ますます疑問を抱く。

似た容姿をしているから何だと言うのだろう。

やはり私には理解できなかった。

例え人間に姿が似ていても、私に人間の誰かの代わりなどできるはずがない。



そもそも私は、『誰か』などと呼ばれる存在ではないのだから。



『それ』としか呼べない存在でしかないのだ。



だが、同時に、息子が最初に見せたあの笑顔の理由が理解できた。

彼は私に、母親を見たのだ。

それも一瞬だっただろうが。