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 完璧だった。
魔法薬の効力を広げる魔法陣も、魔法薬の効力も、通常の100倍、いやそれ以上だった。
あっという間に、あれほどひどかった青竜のやけども後もなく消え、薄氷のような美しい青の鱗もすべて元通りになった。



これは、魔法薬ではない。
霊薬と言っていいほどの効力だ。
驚く赤竜に青竜。
そして、
黒竜―ベルデウィウス。



これほどの薬は長く生きてきた中ではじめてみた。



『お礼はお友達の傷が癒えてからでお願いします』



シルヴィアの微笑みとその言葉を思い出す。
魔法研究者《ディーン》にしては、確かに変わり者かもしれない。
ベルデウィウスは念のために安静を、と青竜に言い、赤竜を青竜の傍につけさせた。
『狭間』の下に広がる大地。
その東の森に居る、少女の思い浮かべる。



「礼を、言いに行くか」



言葉に出すと、シルヴィアの笑顔がよぎる。
思い立つとすぐ狭間から身を落とし、黒竜は大地へと降りる。
人の姿を取り、夜が明けるとともにアルファレシュトの塔へと赴く。



 一人の少女が大地に伏せていた。



ぞっとした。
慌てて駆け寄ると、少女は寝息を立てていた。
すやすやと穏やかに大地に伏せて寝るシルヴィアに、魔法使いの言葉が蘇る。



『気付いていたら寝ている』



昨日感じ取れなかった、魔力《マナ》の乱れ。
魔法薬の最後の仕上げに多量の魔力《マナ》を消費したのだろう。いや、少女から見て取れる疲労は昨日の出来事だけではない。
朝から晩まで魔法書を読み、研究に明け暮れているのだろう。