『大丈夫だよ…もう襲ったりしないから…!』
冗談ぽく…笑いながら言うコウさん…
私を笑わせるためだね…
きっと……
『…はい。』
私は笑った……。
『純さんに振られたら…俺が慰めてやるから…頑張れ!』
『ありがとう、コウさん。私…きちんと純さんへの想いに向き合います。ちゃんと伝えようって思うんです…』
『純さんはいいよなぁ…ハルちゃんに告られんだもん…。でもさ…俺、ずっと感じてたんだけど…純さん、ハルちゃんが好きなんじゃないかな……まぁ…俺の勘だけど…』
『それはないと思います…。』
『まぁ…頑張れ…。あっ…!そうだ…。これ…。』
コウさんはカバンから小さな袋を取り出し私の前に置いた。
『なんですか?』
『これ…バレンタインのお返し…。今日…ホワイトデーだろ?』
…あっ…忘れてた……
『…やっぱりな…ハルちゃん、忘れてんだろ〜なぁ…って思ったんだ…。』
『はい…忘れてた…。』
『あんときのこと…思い出させちゃうみたいで迷ったけど…受け取って…!』
『…ありがとう…。開けてもいいですか?』
『うん…。でも気に入るか不安!』
ちょっと…顔を赤らめてる…。
袋から小さな箱を取り出す…
開けると…ピアス…
私が好きなシンプルなデザインの…かわいいピアスだった…
『かわいい…ほんとにもらっていいんですか?』
『気に入ったらもらって!』
『はい…。気に入りました。つけよっと…』
私は今つけてるのを外し、もらったピアスをつけた。
『似合うな…やっぱりハルちゃんにはシンプルなのが似合う…。』
そう言って私の頭を撫でてくれた…。
ありがとう…
ありがとう…コウさん…
何度言っても足りないよ…
ありがとう…
ありがとう………
その日からコウさんは、また私の隣にいてくれた。
前とは違う…
友達として…先輩として…
というか…
なにかあればすぐに守ってくれるナイトのように…
私は二年生になった。
相変わらず、私の毎日は大学とサークルと…
バイト…。
一年生の冬にスノボーデビューした私は意外にもハマってしまい、サークルの日帰り合宿にも必ず参加した…。
勿論、コウさんも一緒だ…
もう、コウさんとは話もできない…
って思っていたけど、コウさんは何ら変わらなくて…
逆に避けようとしてしまった私を叱ってくれた。
だからいろんなことがあったけれど、コウさんは変わらず私の隣でボディーガードをしてくれた…
ゲレンデでは私はよく声をかけられた…
皆さん目が悪いのかな…
きっとゴーグルとか帽子で顔が隠れてるからみんな騙されちゃってんだなぁ…
そんなとき、コウさんは必ずやってきて追い払ってくれた…。
コウさんが来るとすぐに声をかけてきた人たちは去っていく…
だって…かっこいいコウさんを見たら…
しようがないよね……
そして、コウさんは必ず、
『純さんの代わりに今だけ彼氏な!』
って言う…
…もう!純さんは彼氏じゃないし…私を“妹”だと思ってるのに…
そう言われるとなんだか余計に切なくなるけど…
それはコウさんの優しさだから何も言わない…
もし…そうなったらいいなぁ…なんて思ったりしちゃうし…
都ちゃんは相変わらず実さんとラブラブだった…。
ノリにも彼氏ができてなんだか楽しそう…
よく、ラブラブな写メが送られてくる…
まったく…嫌味だ…
でもノリの幸せそうな顔を見ると私も嬉しい…
ノリにはこのままずっと幸せであってほしいな…
って………
やっぱり春は“恋”の季節なの…?
周りはカップルだらけな気がした…。
バイトは週に四日入っている…
今まで通り夕方から夜にかけて…。
入り時間は様々だけど…。
週四日のうち、二日は純さんに会えるんだ…
純さんは、四年生になって大分忙しいみたいで、週に二日しか来なくなった…。
二日のうち一日は深夜のシフト…
だから交代の10〜15分一緒に働けるだけ…
なんだけど…
いつも一時間前には休憩室に来てる…。
バイトの前に腹ごしらえをするらしい。
だから私は、いつも倉庫での…みんなが嫌う単調な仕事をするんだ…。
倉庫にいると、純さんは必ず、休憩室と倉庫を隔てているドアを開っはなしにしてご飯を食べてくれる…
私と話をしてくれるために…
店の中では私語は一応禁止だからあまり話ができない…
だから週に一度のこの時間が、私にとって最高の時間だった…。
でも…
私は欲張りだ…
毎日会えないことが寂しい…
沢山会いたい…
って思ってしまう…
だけど…
私は彼女にはなれない…
だだの“妹”…
会いたい…なんて言えないんだ…。
でも…必ず純さんに想いを伝えるんだ…
純さんとの約束の日に…
必ず…
その約束を胸に…
私は頑張るんだ………
夏は、バイトに明け暮れた…。
お陰で時給はビックリするくらい…?!……でもないけど…かなりアップした。
私の真面目さをかわれて、仕入れの発注のひとつを任されたり…
私って今だかつてこれほど頼りにされたことはない。
いつも周りが色々してくれちゃって、私はそんなに頼りないのか……って凹むこともあった。
だから私には初めてのことで、嬉しくて…嬉しくて…
バイトばかりしていた気がする。
まぁ…それだけが理由ではないけれど…
あんなに春はバイトに来なかった純さんが夏休みはバイトに精を出していた。
そんな理由…だ…。
そんなおバカな理由でも私には重要なんだ…
でも気がかりなことがあった…。
あの日から純さんは約束のことを口にしない…
多分、口にすればあの日のコウさんを思い出すから…
って思ってくれてるのかもしれない…
だけど…私は不安だった。
純さん…約束覚えているかな…………って…。
でも、私からは聞けないし…
忘れられてたら…と思うと余計に聞けない…
怖い………。
だけど…私…
見ちゃったんだ………
純さんのポケットから。
私のハンカチを………。
嬉しかった…
自分のものを、好きな人が身に付けてくれる…
ただそれだけで嬉しい…
しかもハンカチを持っていてくれてるってことは…
約束を忘れてないってことだ…。
だからもう…不安になったりしない…。