『コンビニに行こう!』

『あの…はい…。』


戸惑う私に、


『ハルちゃん!』

コウさんは私の両肩を掴んだ…。


………痛い……。



コウさんの掴んだ手に力が入る…




『俺、彼氏でもないけど…怒れる立場じゃないけど…すっげームカついてる…』


『…あの…』


『ハルちゃん…俺と向き合おうとしてくれてんだよな…?!』


コウさんの問いかけに、私は俯いた…



そんな私の態度に、


『ハルちゃん…俺を見てくれよ…』

必死で…そして少し悲しげなコウさんの声に、私は顔を上げた…。



コウさんの顔が近づいてくる……




…私……

コウさんをこれ以上、利用したくない……



『…ダメ…!』


私はこれ以上近づけないように、コウさんの胸に手を当てた…


でも、コウさんは私の手を払い、腕を背中に回した…


強く引き寄せられる…



『コウさん…ごめんなさい…』

それでも顔を反らす私に、コウさんは片手を私の頭に回し、もう片方は腰に回った…


もう私は身動きがとれなくなった…



私…どうしたらいいの…?


これじゃあ…私…


またコウさんに甘えちゃう…




唇と唇が重なる瞬間…



“ガチャッ”と、勢いよく店と休憩室をつなぐドアが開いた…。




明らかに動揺している純さんがそこにいた…



『ハルちゃん…ちょっと…レジ…お願い…』



声が少し震えている純さん…


私は見られてしまったという思いと、恥ずかしさで俯き、気まずさでサッサと店に入った…





その後………純さんとコウさんが…………



『邪魔しましたね?』


『…ごめん…。』


『やっぱり純さんもハルちゃんが好きなんじゃないですか…』


『ごめん…。』



『でも、彼女いるんでしょ?そんな奴にハルちゃん渡しませんよ…』



なんて、宣戦布告していたなんて…


そんな話をしていたなんて知らなかった…。








この時の私は…


純さんが私の告白を覚えていないことに安堵していた。

だから…私は、告白なんてしていない……

と思うことにした…。



だってそうすれば…

今まで通りでいられる…

変わらずに接することができる…





そんなことばかり考えていた………。








結局、コウさんにきちんと返事ができないままズルズルとしてしまった…


一度は好きになりたい…

って思ったし、好きになりかけていた。


コウさんの言葉や行動、一つ一つにドキドキして…


コウさんが頭から離れなかったことだってあった…。


だけど…コウさんに気持ちが傾くと、必ず純さんはタイミング良く、私の心の中に入ってくる……。



純さんのちょっとしたことや言葉でも、私の中では何倍も何百倍も膨らんで…

ドキドキさせられた…




それに気付いたのはバレンタインの時…





私とコウさんの関係が大きく変わったのもバレンタインがキッカケだった…







私ってやっぱりみんなが言う通り天然か…?!


アホなのか………?!


女の子のくせに…

コンビニでチョコを売ってたくせに…


忘れてた…………


いや…、正確に言うとバレンタイン自体を忘れたわけではなくて…


まるで、他人事のように考えていた…。



だからバレンタインの日、誰も入りたがらなかった日なのに私はバイトに精を出していた…




バイトも終わりに近づき、お客さんも疎らで、暇をもてあましながら、レジの雑用をしていたとき、

渋々働かされてしまった美雪さんに、


『ハルちゃんは誰にあげたの?』

と聞かれても、なんだか分からなかった…


『えっ?何をですか?』


『えっ…何ってチョコ…』

私の質問返しに、少し驚いたように、チョコの棚を指差す…



『…あっ……』


『何ぃ?!ハルちゃん…チョコ売りながら何考えてたの?』


『いやぁ…別に何も……』


『ホント…ハルちゃんって天然…っていうかアホ?』

美雪さんは呆れ顔…


この時ばかりは、自分でもそう思った……。


『待ってる人…いたんじゃない?』


美雪さんの言葉にハッとする…

コウさんの顔が浮かんだ…



…待ってるかなぁ…コウさん…


どうしよう…帰って急いで作っても渡しには行けない…


だからといってコンビニのチョコを買うわけにも…
ねぇ………







でも、とりあえず帰ってから作ろうと、バイト帰りに24hスーパーに立ち寄り、材料を買い込んだ…。



何度か作ったことのあるチョコケーキにした…


コウさんはケーキが好きだって言ってたし…



料理もお菓子作りも完璧だって自負している私だけあって…

我ながら…美味しい…。




出来上がると、タイミング良く携帯がなった…


メールだった。


見る前に、コウさんの顔が浮かぶ…


携帯を開くとやっぱりコウさんからだった。



“ハルちゃん、チョコは〜?!”


そんな一言メールに笑ってしまった…



コウさんって大人なのか…コドモなのか…


かわいい…


こんな風に素直に言ってくれるコウさんが愛しいとさえ思ってしまう…



…ダメダメ…!


コウさんに甘えてる…




…でも……このケーキは誰を思って作った?



と聞かれると………


コウさんだった…。




私…何してんだ…?!


どうしたいの?!


これを渡したら、コウさん…


どう思うか…分かってるくせに…



私の今の気持ちは……?



ちゃんと…今の私の気持ちを伝えなきゃ…




こんな曖昧な気持ちでも…
コウさんは受け止めてくれるだろうか…


コウさんを困らせるだけかもしれない…

でも、今の私の気持ちを伝えるんだ…



私は携帯を開け、メールを作る…


“すいません…忘れてました。話したいこともあるので明日でもいいですか?”

と、返信する。



返事はすぐに返ってきた。


“忘れてたのかよ?!ハルちゃんのバカ!!”


“すいません!ほんとにバカです…”


“明日…待ってる…。”




…待ってる…かぁ…


コウさん…ほんとに私のこと想ってくれてるんだ…



そう思うと…気持ちに答えたくなる…



誰かが言ってたなぁ…


【女は愛するより愛してくれる人と一緒になったほうが幸せになれる…】

って…………




そんなことを考えながらお風呂に入り…


眠りについた………。




次の日…

大学に行くと私の周りはカップルだらけ…


都ちゃんなんか、ラブラブ度が増して、二人の間に入ることができなかった…



…あ〜ぁ…私って本当にアホかも……




こんなカップルだらけで…

ふと、思い出してしまう…



…純さんも彼女さんとこんな感じで過ごしてるのかな………



実は、私のカバンにはラッピングされたものが二つ…


コウさんだけに作った…



…はずだけど…つい…純さんの分まで作っていた私…


バレンタインは昨日だし…渡せるはずもないのに…






そんな時…後ろから抱き締めてくる人がいた…



『うわっ!!』

驚いた私に…

『そんなに驚かないでよ!』

楽しそうなコウさんだった。