「ブス、チビ、ぶりっ子!」


あっかんべー、なんて花湖をおちょくっているけれど、健吾だってそうだ。


ふざけながら、その頭の中はおそらくフル回転しているんだと思う。


3年間、同じライン上で白球を追いかけて来た、おれの生涯無二の大親友なのだ。


だから、学校から片道3キロの距離を走って追いかけて来てくれたのだろう。


こんな、どうしようもない、おれを。


まだ冷めやらぬ熱風が縁側からひと思いにぶうわっと入って来て、日めくりカレンダーをかさかさめくった。


その風が居間をぐるりと一周して外へ出て行った時、車のエンジン音が聞こえてきた。


「帰って来たみでいだな」


きぬさやの筋をむきながら呟いたのは、ばあちゃんだった。


じいちゃんが、帰って来た。


おれは崩していた足を正し、正座してじいちゃんを待った。


ブウン、とエンジンの音が止まってしばらくすると、じいちゃんが縁側先に姿を現した。


ちゃぶ台を囲むおれたちを見るなり、じいちゃんは嬉しそうに笑った。


「おう。今日も勢揃いだな」


じいちゃんが笑うと、大きな口の奥で金歯がキランと光る。


それを、おれはなぜか、かっこいいぜ、と思ってしまうのだ。


小さい頃から、いつも、そう思う。


「ここの所雨降ってねえもんだがら、見れ、トマト真っ赤になって。もぎたてならねえ」


完熟のトマトと、むっちり太った水ナスをごろごろと縁側に転がして、


「明日はきゅうり山なるだげもいでくるがらよ」


とじいちゃんはツバがほつれているのにそれでも使い続けている麦わら帽子を、大切そうに小脇にかかえながら、居間に上がった。


「じいちゃん」


「なんした、修司」


いやあ、あっちいあっちい、とじいちゃんはおれたちの輪に加わって、ちゃぶ台の前に腰を下ろすや否や、近くにあった農協のロゴ入りの内輪でパタパタ扇ぎ始めた。


「花湖ちゃん、まためんこぐなったなあ」


今年66歳になったじいちゃんは、花湖が可愛くてどうしようもないのだ。


「えええ。昨日会ったばっかりじゃない。正雄じいちゃん」


花湖が笑うと、じいちゃんも笑う。


「んだっけが。したって、めんこいもの」


和やかなふたりを見つめるおれは、究極に緊張していた。


どくどく、どくどく、脈が速くなる。