「おや。花湖ちゃんも来たな。待でな。麦茶持って来てやっからな」


と台所に向かうばあちゃんの背中に聞いた。


「じいちゃんは?」


「そろそろ帰って来る頃だ。トマトとナスもぎに畑さ行った」


「んだのが……何時頃行ったな?」


「はあ……3時過ぎだったがや」


壁の鳩時計を確認すると、古くなって錆びついた針は15時30分を差していた。


確かに。


そろそろ帰って来てもいい頃合いだ。


畑作りの仲間につかまって話し込んでいなければ、の話だけど。


「ほれ、花湖ちゃんの麦茶」


ごとん、とちゃぶ台にもうひとつコップが追加された。


「ありがとう。世津子ばあちゃん」


花湖がにっこり笑うと、ばあちゃんは嬉しそうに顔をほころばせて「花湖ちゃんはめんこいなあ」とまた居間の隅っこに戻って行った。


「これな、明日の朝の味噌汁の具にすんだよ」


黙りこくるおれたちに背中を向けて、ばあちゃんは独り言をぶつぶつ言いながら、きぬさやの筋むきを再開させた。


縁側の庭先は賑やかだ。


じわじわ、じーわ。


にいーにいーにいー。


みーんみんみんみん。


蝉たちが大合唱だ。


あいつらが大人しくなる頃には、陽射しが西日に変わって、夕方になる。


「ねえ、修ちゃん、どういう事?」


真っ黒なボブヘアー、ちっちゃな顔、くるくるまあるい形の愛らしい形の目。


「聞いてるの? 修ちゃん」


ぱりっとのりの効いた夏用のセーラー服に、臙脂色のリボン。


花湖は最近、妙に色気づいて、また少し可愛くなった。


花湖は、幼なじみだ。


「花湖にちゃんと説明して」


目をくるんくるんさせてびったりくっついて来た花湖から、シャンプーの甘い香りがした。