実力がものを言う厳しい世界だ。


全部員が仲間で、全部員がライバルだ。


日々、切磋琢磨している。


先輩も後輩も無い、とは言うが。


でも。


「おれの先輩なんだ」


菊地先輩は、生まれて初めて心から尊敬できる憧れの先輩なのだ。


同じポジションだからこそ分かる、難しさと葛藤。


同じ苦しさが分かる、先輩だ。


ナイター照明が落とされたグラウンドは、あまりにも寂しくて異次元空間のようだ。


ベンチの脇に突っ立って、守備位置を見つめる。


何やってんだ……おれは。


のろまな亀でも追いつけそうなぼってんぼってんのゴロは、綺麗なトンネル。


へろへろ落下してくるフライはグローブにかすることなく、落として。


バットを振っても、かすりもしない。


あげく、仲間には叱咤激励される様だ。


何を目指していたんだっけな。


何をしに、桜花に来たんだったっけな。


よく分からなくなっていた。


ああ、と情けなさ全開の溜息を吐き出しながら、しゃがみ込む。


こんな時に思い出してしまうのはやっぱり、響也と健吾で。


あいつら元気かな、とか。


何であいつらと一緒に南高行かなかったんだろう、とか。


弱気な事ばかりが頭の中をぐるぐる駆け巡る。


苦しかった。


苦しさに、窒息しそうだ。


菊地先輩との間に溝が生じてしまった事が苦しかった。


さくっ。


背後に人の気配がした。


しゃがみ込んでぶはーっと豪快な溜息を吐き終えた直後だった。


その姿勢のまま振り向く。


「わあっ! いきなり振り向かないでよ! 脅かしてやろうと思ったのにっ」


こっちが驚いちゃった、悔しいー! 、とその場でバタバタ足踏みをしてきゃらきゃら笑ったのは、マネージャーの安西鞠子(あんざい まりこ)だった。


他に、誰も居なかった。