菊地先輩に遠慮したことなんて、ない。


でも、南波の目にはそう映ったのかもしれない。


確かに、昨日からのおれは酷いってもんじゃない。


あの真夜中の出来事。


菊地先輩の涙を見てから、ミスばかりしていた。


しかも、昨日今日野球を始めたのかと思われても仕方のない、凡ミスばかりだ。


バットにボールを当てることすらままならないのだった。


「ここは馴れ合いの野球ごっこするような場所じゃない。みんな、全国目指しに来てんだよ」


それは、分かる。


おれだってそうなのだ。


「分かってるよ」


でも、気になってしまってどうにもならないのだ。


「んな事は分かってんだ」


つっけんどんに返したおれに、南波も「分かってねえよ」とつっけんどんに返して来た。


「桜花って、こういうとこなんだ」


と南波はまるで事の事態を把握でもしているような口ぶりだ。


「平野がどうこうできるような問題じゃねえよ。菊地先輩の問題だろ。平野まで影響されてどうすんだよ。外野の要、最悪だな。今の桜花は」


さすがに頭に来た。


何に対してカッとなったのかと言えば、自分にだ。


南波にじゃない。


なぜなら、南波が言った事はもっともな事なのだから。


「お前、何抱えてんだよ」


ぽん、と南波がおれの肩を弾く。


弾かれて、ぽん、と口から飛び出しそうになった。


「あ……いや」


と堪えたおれに、南波が呆れたように溜息をこぼした。


「平野。お前まで影響されんな。影響されてダメになんなよ」


菊地先輩がダメになっても、お前が使いもんになんなくなっても、代わりはまだ7人も居る。


と言った南波の口調はしっかりしたものだった。


「なあ、平野。おれの後ろは、お前に守ってもらいたいんだよ」


「……え」


センターというポジションを狙っているやつは、おれだけじゃない。


「おれがマウンドに立った時、後ろに守備していてくれるのが平野だとありがたい」


2年の先輩は4人居るし、1年はおれの他に3人も居るのだ。


「お前までダメになんなよ」