太陽が一番空高く昇る午後2時を過ぎた頃だった。


「ななな。あと小一時間ほどでおやつの時間でございますな」


しんと静かな室内にシャープペンシルのコツコツと、健吾の小声が響く。


「なななな。アンパンて、おやつに入るよな?」


始まった。


健吾は集中力に欠ける男だ。


野球となれば何時間でも持続する集中力を持っているくせに、他の事となるとすぐこれだ。


「だって、一食には値しないだろ? な、なあ、どう思う?」


「……」


響也はもともと物静かで無口な方だから知らんぷりをしていたけど、健吾のしつこさに耐えられなくなったおれは、小声で答えながら注意した。


「どっちでもいいだろ。人それぞれだしさ。静かにしろよ、みんな真面目に勉強してんだから」


「いや。これは大きな課題だろう。夏休みの研究課題にしようと思ってだなあ」


「……くだらね。もっとマシなのにしろって。おれら受けるとこ、一応、進学校だぜ」


「あ。修司」


ねっとりとしたまとわりつくような暑苦しい目で、健吾が顔を寄せて来た。


「お前、今、アンパン侮辱したな。アンパン粗末にしたらアンパンで苦労するぞ」


「意味わかんね」


「だあかあらあー。カビルンルンが大量発生しても、アンパンマンに助けてもらえねえぞって言ってんの」


「はあ……?」


一応、小声で言い合っていたつもりだったけど、やっぱり、うるさいものはうるさかったらしい。


「まじうるっさいんだけど」


前のテーブルに座っていた女子が振り返って睨んで来た。


元ソフトボール部の、佐藤だった。


「そこの野球バカトリオ。静かにしてよ」


「なあにいー。うるさいって言ったやつがうるさいんだ」


がっぺむかつく、ケンゴスペシャル、と健吾が江頭の真似をやると、前のテーブルの女子ソフトボール部が凍りついた。