「桜花だぜ、桜花。行きたい野球バカがうじゃうじゃ居るんだぜ。向こうから声掛けてもらえるやつは、ほんの一握りの選ばれた人間だけだ。その一握りに、修司は居るんだぜ!」


もう、泣き崩れてしまいたかった。


おれは幼い頃の経験から、一生ツイてない人生を送るもんだと思っていたから。


最強の親友がふたりもいる事に、泣き出してしまいたかった。


むっつり顔で腕を組むじいちゃんの肩を、健吾がぐらぐら揺すった。


「おれだって……おれだって、修司の立場だったら、土下座する。行きたいって言う。絶対言う!」


ばあちゃんはますます小さくなって、くたくたにくたびれたシャツの裾で涙を拭いた。


「じいちゃん、何か言え。黙っていねえで、修司さ返事してやれ」


うううん、と唸ったじいちゃんが薄く口を開きかけた時、割って入ったのは花湖だった。


「嫌! 花湖は認めないからね。花湖、修ちゃんが南高行くっていうから、勉強がんばってるんだよ。修ちゃんと一緒に南高行くんだもん!」


賛成しちゃダメッ! 、と花湖がちゃぶ台に身を乗り出した。


「うっせえ、ブス! お前は引っ込んでろよ! 修司の応援できねえなら帰れ! ぶりっ子」


健吾に怒鳴られても、


「ブスじゃないもん。花湖、もてるもん!」


花湖はしれっとして、ぷいっとそぽを向いた。


花湖は可愛い顔して、性格は頑固親父だ。


「……修司」


ついに、じいちゃんが口を開いた。


「はい」


ごくりと息を丸飲みして、じいちゃんを見つめ返した。


「おめえ、桜花大附属の監督と会ったのが? しゃべったのが?」


「うん。さっきよ、学校さ来たんだ。監督と、コーチ、ふたりしてな」


「……して、監督は何て言うっけ?」


「うん」


おれは、その時の事をこと細かく、じいちゃんとばあちゃんに伝えた。


あの出来事がなかったら、おれはあのまま日が暮れる頃まで勉強して、帰って来て、夜に放送されるラピュタを楽しみにしていたと思う。











南第一中学校。


おれは、進学校でもある南高校を目指すべく、響也と健吾と一緒に学校の図書室で受験勉強をしていた。


夏休み中でも図書室は毎日開放されていて、静かで、受験生たちのたまり場になっているのだ。