「先輩不在中におれがセンター奪ってもいいんですね! 先輩が戻って来た時にはもう、おれがセンター守備してますよ!」


おれ。


でっけえ事、言っちまったぜ。


「はああああん?」


「まじっすよ! そん時は背番号8付けてますもん、おれ!」


喧々囂々。


おそらく、きっともう。


おれも菊地先輩も、後に引けなくなっていたのだと思う。


見栄と意地の張り合いだった。


「先輩、ベンチっすよ!」


「なにー! 調子のんじゃねえぞ! ミソっかすが!」


「いやいやいや。待てよ。ベンチも無理かもしれないっすね。あー、応援スタンドかもしれないっすよ」


「てんめえええ」


何だよ。


おれの負けず嫌いを焚附けたのは先輩じゃねえか。


「おれはまじですよ! 本気っす!」


おれを挑発したのは、菊地先輩だ。


「上等だ。なれるもんならなってみやがれ、桜花大附属のセンターに!」


「言われなくてもそのつもりっす!」


「コンニャロー! 奪えるもんなら奪ってみやがれ!」


よっしゃ! 、と菊地先輩はアスファルトから帽子を拾い上げ、深く被り、


「風呂入って、飯食って、寝る! 行くぞ、後輩!」


おれをするりと交わして寮の玄関に向かって、すたすた歩いて行く。


オッサンみたいに。


「お……おす!」


返事をして、でも追いかけずにおれは夜空を見上げた。


あー。


めちゃくちゃスッキリしたぜ。


大きな声でぶつかって行ったら、すっきり爽快だ。


月が明るい。


バン、と音がした。


菊地先輩が中に入って行ったのだと分かる。


戸が開いて、閉まる音がした。


でも、おれはすぐに動かず、もう少しの間月を見上げ、息を深く吸い込んだ。