「な、平野。俺たちが守備してるとこはセンターラインだろ」


キャッチャー、セカンド、ショート、それから、センター。


それらが該当する、ライン。


「センターラインは守備の要で、俺たちの守備力がチーム全体を左右しかねないのは、分かるよな」


「はい」


かく、と頷いたおれに、


「例えば人間だってそうだろ」


と菊地先輩は言い、おれの背骨の辺りを拳でゴツリとど突いてきた。


「体を支えてるこの真ん中の骨が折れたらどうなるよ。脊髄損傷んなって、歩行困難になるだろ」


「はい」


「それと同じ。俺らセンターラインがぐだぐだになったら、桜花の守備もめちゃくちゃになるんだ」


「じゃあ!」


「あ?」


「じゃあ」


おれは背筋を正して、真剣に、菊地先輩に向き直って正面から言った。


「おれも言わせてもらいますけど」


「何だよ」


挑発的な目と目が合う。


ぐっと拳を握って、菊地先輩を睨み返した。


「不動のセンター不在になったら、どうなるんですか。先輩抜きの桜花は……どうなるんですか。先輩がいなきゃ……」


今、この人が抜けたら。


桜花の守備はどうなってしまうんだろう。


確かに、菊地先輩の他にもセンターを守れる人材はいる。


でも、菊地大輔ほどの実力を兼ね備えたやつは……。


「居ないと思います」


菊地大輔を越えられる人材は居ないと思う。


この人の貪欲なプレーには誰もが信頼を置き、誰もが一目置いているのだ。


打球から目を反らさず、打者が打った瞬間に最終落下地点を瞬時に予測し、最短距離を計って駆け出す、その判断力。