「あ、頭の回転が良くて、プレーを機敏に分析できることと、肩が強く送球のコントロールが正確であること」


桜花に入って一番最初に菊地先輩から教わったことだった。


忘れた事は一度もない。


しつこく、しつこく、耳を塞ぎたくなるほど叩き込まれた条件だったからだ。


ノートに書かされたし、夢にも出てきたくらいだ。


うん、と菊地線先輩が満足そうにうなずく。


その横顔はまるで、監督みたいだ。


「特にセンターは全ての野手の送球のバックアップをして、状況判断に長けてなきゃだめだ。捕球したら正しい位置に、正確なコントロールで送球すること」


「はい」


と返事をしながら、うわっ、たまんねえや、と胸が熱くなる。


これだから、菊地先輩はたまらないのだ。


普段は本命の彼女がいても案外チャラくて、鞠子にまでへらへらして、どこかふざけて見えるのに。


けど、どうだ。


「外野手の中でも中堅手ってのは一番に俊足じゃなきゃだめだ」


どうだ、どうだ。


「それでいて、守備範囲が広くねえと話になんねえ」


野球、という2文字が絡んでくると、この人は豹変する。


別人になる。


大粒の目を獣みたいにギラつかせて、尋常じゃないくらい貪欲になる。


惚れてしまいそうだ。


だから、おれは菊地先輩に憧れてやまない。


投手のように注目を集める華やかなポジションとは言えないのかもしれない。


決して目立つポジションではないし、むしろ、目立たない守備位置なのかもしれない。


でも、センターというポジションに誇りを持ち、こだわる菊地先輩がおれはどうしようもなく好きなのだ。


かっこいいったらない。