「だって、おれはっ」


「だってもクソもねえ! 抜けた事ほざくな!」


「何でおれなんですか! おれはまだ1年で」


「バカ! ここは年功序列なんてねえ場所なんだよ! 桜花はそういうとこだ! 1年も2年も関係ねえの!」


「けど、まだまだ、先輩の足元にも――」


「平野!」


ギャッ、とした大きな声を出して一気に詰め寄って来た菊地先輩が、


「だから成長しろって言ってんの!」


「うわっ」


おれのアンダーシャツをむしるように掴み、ぐいっと引っ張った。


「いいか、見ろ!」


目をギリッと吊り上げて、菊地先輩はもうすっかり暗闇に呑み込まれたグラウンドを指さした。


言われたようにグラウンドに視線を向ける。


「知ってっか?」


「何すか」


「深津はコントロール投手だ。だから滅多に打ち込まれる事はねえけど。でも、あいつのストレートは癖が無くて素直だから、当たれば確実に長打になる。しかも、大概はセンターライン中心に伸びてくるんだ」


分かるよな、と菊地先輩がおれの背中を思いっきり叩いた。


背骨がびっくりするくらいの力加減だった。


「だから、真っ直ぐ、俺らのとこに飛んでくんの!」


大きな声で言われて、


「わ……分かってますよ、そんくらい」


とっさに大きな声で返した。


そんなおれに菊地先輩は、中堅手に求められる事は何か、と引っ掛けてきた。


「まずは基本。外野手の必須条件から」